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マーケティングのキーコンセプト

#63 狩野モデル Kano Model

田中 洋
中央大学ビジネススクール教授。京都大学博士(経済学)。社会人ビジネススクールでマーケティング戦略論を講義するとともに 多くの企業でアドバイザーや研修講師を務める。
著作・翻訳に『ブランド戦略・ケースブック』(編著、同文舘出版)、『キュレーション』(監訳、プレジデント社)、『課題解決!マーケティング・リ サーチ入門』(編著、ダイヤモンド社)、『消費者行動論体系』(中央経済社)、『1ワード3分でわかる!基本から最新までマーケティングキーワードベスト50』(ユーキャン)など。
日本広告学会賞(3度)、日本マーケティング学会ベストペーパー賞、東京広告協会より白川忍賞を受賞。
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/cbs/index_j.html
■狩野モデルとは

 狩野モデルとは、東京理科大学名誉教授の狩野紀昭(かのう のりあき)(1940年~ )氏が1980年代に唱えた、製品品質要素の分類方法のことです。このモデルはKano Modelとして世界的に高い評価を得ました。今日、品質管理やサービス品質、顧客満足を考えるとき、この狩野モデルを抜きにしては考えられないほどです。海外の品質管理の研究文献にはこの狩野モデルがよく引用されています。マーケティングにおいても非常に重要な意義をもっているこのモデルは、しかし、日本のマーケターにさほど知られていないようにも感じられます。
 狩野モデルが唱えられるまで、品質の要素(属性)を差別なく、あらゆる品質要素を高めることが品質管理で重要だと考えられてきました。しかし狩野氏が考えたのは、あらゆる品質要素が同じく重要ではなく、要素ごとに、その充足程度によって異なった顧客満足をもたらす、ということだったのです。
 狩野氏は品質要素を以下のような5つに分類しました(「狩野モデル」)。

  1. 魅力的品質要素(attractive quality elements):それが充足されれば満足を与えるが、不充足であっても仕方がないと受けとられる品質要素。
  2. 一元的品質要素(One-dimensional quality elements):それが充足されれば満足、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。
  3. 当たり前品質要素(Must-be quality elements):それが充足されれば当たり前と受け止められるが、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。
  4. 無関心品質要素(Indifferent quality elements):充足でも不充足でも、満足も与えず不満も引き起こさない品質要素。
  5. 逆品質要素(Reverse quality elements):充足されているのに不満を引き起こしたり、不充足であるのに満足を与えたりする品質要素。

 このうち重要なのは1、2、3の品質要素です。図1に示されていることの意味を少し考えてみましょう。

図1.狩野モデルと3つの品質要素

「狩野モデル」 https://sites.google.com/site/techdmba/kanomodel より

■当たり前品質要素

 この図1で垂直の軸に取られているのは、顧客満足度です。上の方に行くほど、顧客満足=お客の喜びが高いことになります。水平軸は顧客ニーズの充足度と考えれば良いでしょう。右の方に行くほど顧客ニーズが満たされていることになります。
 では、まず「当たり前品質」から考えてみます。当たり前品質の特徴は、左下の象限にある間、つまり、顧客ニーズが満たされていない段階では、顧客満足も低いことがまず挙げられます。次に、左から右に顧客ニーズが満たされていく段階を想定してください。当たり前品質の最大の特徴は、顧客ニーズが満たされていったとしても、顧客満足は一定程度以上上がらない点にあります。
 当たり前品質の例として日本旅館で「部屋の清潔さ」が挙げられるでしょう。おそらく多くの日本の旅行客は、旅館の部屋が清潔で、その点のニーズが満たされていても、当然と受け止めます。そこで旅館側が、がんばってゴミもばい菌もゼロに近くなるまで清潔の程度を上げていったとしても、顧客満足は一定程度以上には上がりません。

■一元的品質要素

 次に「一元的品質要素」について考えてみます。この要素の最大の特徴は、図1に示されたように、顧客ニーズが満たされれば満たされるほど、顧客満足も比例して上がっていきます。そして、顧客満足が上がる程度には天井がありません。
 日本旅館でこの一元的品質要素に当たるのは、旅館から提供される「食事の質」でしょう。食事の内容が良ければ良いほど、おいしければおいしいほど、豪華であればあるほど、おそらく顧客の満足度は高まるはずだと予測されます。地元で取れた野菜や肉などがふんだんに振る舞われ、見目も美しく盛りつけられ、おいしく調理された食事なら、顧客満足はかなり上がるのではないでしょうか。
 もちろん一定程度以上に食事の質が高まれば、どこかで顧客満足が上がらなくなることはあり得ます。しかし一定の幅においては、食事の質に比例して、顧客満足が上がることは容易に想像できるのです。

■魅力的品質要素

 三番目は「魅力的品質」です。この品質を他の品質要素と区別したところが狩野モデルの大きな貢献だと言っても良いでしょう。
 魅力的品質の大きな特徴は、仮にその品質において顧客ニーズが満たされない場合でも、顧客は不満を感じません。むしろその品質は無くてもまぁしょうが無いかな…と思うのです。しかしいったんその品質へのニーズが満たされたとします。そうすると、顧客満足度は大きく上昇するのです。
 日本旅館でこの魅力的品質の例は、部屋付き露天風呂でしょう。仮に部屋に露天風呂がついていなくても、お客はまぁ無くても良い、と考えるでしょう。しかし、もしも部屋に自由に入れるその部屋だけの温泉露天風呂がついていたとします。そうしたらお客の満足はぐっと上がります。

■どうすべきか

 ここまで見てきたことをまとめてみましょう。我々が商品開発や改善において、真っ先に改善すべきは一元的品質です。これを改善すればするほど、顧客の満足は上がるからです。掃除機で言えば、強力な吸引力を備えた「ダイソン」の電気掃除機はこの一元的品質を技術によって改善した例といえます。
 そして次に発見すべきは魅力的品質です。魅力的品質はまだ見つかっていない場合や、まだ開発されていない場合が多いのです。電気掃除機で言えば、「ルンバ」のように自動的に動き回る掃除ロボットは、その性能が登場したことがニュースであり、新しい魅力的品質を提供したことになります。
 しかし魅力的品質について注意すべきことがひとつあります。それは技術や商品の性能の向上につれて、昨日まで魅力的品質であった要素が、当たり前品質になってしまうことが多いことです。クルマで言えば、かつて魅力的品質であったパーキング・アシストシステム(例えば、トヨタのインテリジェントパーキングアシストや、日産のアラウンドビューモニター)は現在では多くのクルマに標準装備されるようになり、当たり前品質になりつつあります。旅館の例で挙げた「部屋付き露天風呂」にしても、もしかしたら近い将来当たり前の品質になってしまうかもしれません。
 私たちは常に新しい品質要素を探し続け、同時に、それが陳腐化する危険と戦うことを強いられている時代を生きているのです。

[参照文献]
「狩野モデル」 
https://sites.google.com/site/techdmba/kanomodel

Kano, N., Seraku, N., Takahashi, F. and Tsuji, S. (1984). Attractive quality and must-be quality. Hinshitsu, The Journal of the Japanese Society for Quality Control, April, pp. 39-48.

Mikulic´, J. & Prebezˇac, D. (2011). A critical review of techniques for classifying quality attributes in the Kano model. Managing Service Quality, Vol. 21 No. 1, pp. 46-66.

Sauerwein,E., Bailom, F., Matzler,K., & Hinterhuber, H.H.(1996). THE KANO MODEL: HOW TO DELIGHT YOUR CUSTOMERS. Volume I of the IX. International Working Seminar on Production Economics. Innsbruck/Igls/Austria, February 19-23, pp. 313 -327.

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