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マーケティングのキーコンセプト

#92 営業とブランディング Sales and branding

田中 洋
中央大学ビジネススクール教授。京都大学博士(経済学)。社会人ビジネススクールでマーケティング戦略論を講義するとともに 多くの企業でアドバイザーや研修講師を務める。
近著に『消費者行動論』(中央経済社)、『ブランド戦略全書』(編著、有斐閣)、『ブランド戦略・ケースブック』(編著、同文舘出版)、『1ワード3分でわかる!基本から最新までマーケティングキーワードベスト50』(ユーキャン)など。
日本広告学会賞(3度)、日本マーケティング学会ベストペーパー賞、東京広告協会より白川忍賞を受賞。
■営業の役割とは

 営業という役割は重要であり、かつどの企業にもなくてはならない機能であるにもかかわらず、これまであまり研究されてこなかった。マーケティングがどのビジネススクールや経営学部・商学部でも教えられているにもかかわらず、営業やセールスを教えている大学は数少ない。なぜそうなのだろうか。一つの理由は、営業の働きが企業によって大きく異なり、一般化が難しいということもあるだろう。例えば、クルマのセールスパーソンと、原料を売るBtoBのチーム営業とでは、動き方や考え方が違うことは想像に難くない。
 営業が重要な本質的理由は、営業がマーケティング活動を最終的に実現し、完結させる点にある。つまり、顧客とつながりを開始し、交渉し、実際の売り買いを成立させ、売掛金を回収し、次のビジネスに結びつけるという一連の活動は、マーケティング戦略を「実現」させることにほかならない。

■営業とブランドの関係

 それでは営業とブランド戦略とはどのような関係にあるのだろうか。ブランド戦略がブランドの価値を高めるために行われる活動だとすれば、営業もブランド価値を高めることに貢献すればよいことになる。しかし、ここで起こってくるジレンマとは、ブランド価値を高めることと、売ることとが必ずしも一致しないことにある。(ウェブ版「マーケティングのキーコンセプト」# 91「ブランドのジレンマ」参照)
 もちろん、ブランド戦略が営業にとって意味がないというわけではない。もしもブランド戦略がうまく行けば、より高い価格で、ハードな交渉をしなくても商品が売れてくれることが期待でき、さらに、顧客満足も高まることになる。

■営業が行うブランディング

 それでは営業がプロアクティブに行うブランド関連活動を挙げてみよう。
(1)関係構築:企業ブランドの理念や企業姿勢を伝えて取引関係を開始する。あるいは販売代理店を獲得する。
(2)価値伝達:顧客や販売代理店にブランド価値を伝達する。
(3)意思決定支援:顧客企業内での組織的意思決定のプロセスにブランド価値を伝達して支援する。
(4)価格維持:ブランド価値にふさわしい価格で売れるよう、顧客を説得する。
(5)クロージング実行:最終的な意思決定場面でブランド価値を活用する。
(6)製品授受:製品の搬出から納入まで、ブランド価値にふさわしい行いをする。
(7)フォローアップ:メンテナンス、返品、クレーム処理に至る過程をブランド価値にふさわしい形で実施して、購買後の顧客満足を高める。
(8)関係維持:販売活動終了後も、次の契約を獲得できたり、あるいは、別の顧客を紹介してもらえるために、ブランド価値を用いる。
(9)フィードバック:営業の現場から顧客の反応を通じて、ブランドのあり方について改良や修正についての意見をブランド担当者にフィードバックする。
(10)ブランド創造:ときとして営業自身がブランドを創造することもある。特定の顧客のためにブランドをつくることや、それまで強いブランドとはいえなかったブランドを強くするブランド戦略が営業の現場から始まることがある。

 このように考えると、営業とブランドとの関係とは、(1)営業がブランド価値を用いる局面と、(2)営業がブランド価値をサポートする局面との2つがあることがわかる。営業活動とブランド戦略とは実際に密接な関係にあるのだ。


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