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031号(2012年1月公開)
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田中 洋 中央大学ビジネススクール教授。京都大学博士(経済学)。社会人ビジネススクールでマーケティング戦略論を講義するとともに多くの企業でアドバイザーや研修講師を務める。主著に『課題解決!マーケティング・リサーチ入門』(編著、ダイヤモンド社)、『大逆転のブランディング』(講談社)、『消費者行動論体系』(中央経済社)、『現代広告論[新版]』(共著、有斐閣)、『広告心理』(共著、電通)、『欲望解剖』(茂木健一郎との共著、幻冬舎)、など。その著作により日本広告学会賞を三度受賞している。 |
#32 キュレーション Curation
■メディア生態系の変化
インターネットが興隆し、従来のマスメディアの在り方が変化してきています。そしてこれまでの“メディア生態系”、つまりオーディエンスとメディアとの関係、あるいは、メディアと社会との関わり合いが従来のようなものではなくなってきています。こうした時代にあって、次のメディア生態系はどのようなものになるのでしょうか。それは現在私たちが直面している問題を解決する方向で出てくるように思われます。 現在の情報社会で私たちの問題と言えば、私たちが情報を求めているにも関わらず、すぐそれが手に入らないということです。確かに昔と比較すれば、検索エンジンを使うことで、情報の入手は飛躍的に効率的になりました。しかしそれでもなお、あるいは、それだからこそ、必要とする情報を得ることがより難しくなっているのではないでしょうか。情報が不足しているのは次の3つの場合です。
(1)情報の確からしさの不足、(2)必要な情報種類の不足、(3)十分な情報量の不足、これらを次の例で見てみましょう。
ある女性がスキンケア化粧品を購入したいと思っていたとします。そうしたとき、口コミサイトが役立つかもしれません。ただし、そこで入手できたスキンケア化粧品の口コミ情報が、(1)どこまで確かかどうかはわかりません。また、スキンケアについて(2)本当に知っておくべきポイントがチェックできたかどうかもわかりません。自分の肌のケアについて紫外線やエイジングの情報を知らずにいることもありうるのです。さらに、(3)購入決定のために十分な情報が入手できたかどうかもよくわからないのです。もしかすると、自分が欲しい化粧品ブランドはもっとほかにあるのかもしれないのですから。
このようなとき、役立つウェブサイトがあるとすれば、それは「キュレーション」によって包括的・系統的・網羅的に情報が集められたウェブサイトです。例えば、@cosmeは化粧品について口コミを中心に化粧品についての情報を網羅的に扱っています。
@cosmeの「注目検索ワード」というコーナーを見ると、読者が多く質問しているワードがわかります。ここで例えば、 「ノーファンデ」というワードがもっとも多く質問されていることに気付きます。そうすると、ファウンデーションを使わずに、どうやってキレイに化粧をするかが今の女性たちの関心ごとのひとつだ、とわかることになります。
また質問を読むと、その後に何人もの読者が答えをつけてくれていて、より確からしい答えを探すことができます。これはキュレーションによるウェブサイトのひとつの例です。こうしたサイトを参照することで消費者はより確からしい意思決定をくだすことができるのです。
■キュレーションとは
ではあらためてキュレーションとはどのようなものでしょうか。キュレーションというコトバはもともと博物館や美術館の学芸員の仕事を指していました。つまり世界からさまざまな事物や作品を集めてきて、あるテーマのもとにそれを観客に公開するのが学芸員の仕事です。これをウェブ世界に応用したのがこのキュレーションというコンセプトなのです。キュレーションとは、まず第一に情報を集めることです。ただしそれだけでは「アグリゲーション」(収集)と同じになってしまいます。アグリゲーションとは機械的にある基準に従って自動的に情報を収集することを意味していますが、それだけではキュレーションとは呼べません。次の4つの作業がそろっていてはじめてキュレーションと呼ぶことができます。
(1)収集:情報をできるだけ網羅的に収集します。
(2)評価:キュレーションではコンテンツをある基準によってその質を評価する作業があります。
(3)編集:コンテンツをコンテキスト(文脈)に従って取捨選択し、編集します。
(4)提供:それをあるスケジュールに沿って利用者に公開し、提供します。
以上の4つのプロセスがあってはじめてキュレーションと呼ぶことができるでしょう。つまりキュレーションとは、機械ではできない、人間がしなくてはならない作業なのです。この意味では、キュレーションは高度に発達した検索エンジンのアルゴリズムに対するアンチテーゼと呼ぶこともできるかもしれません。
■キュレーションの実践者
かつて「リーダーズ・ダイジェスト」(リーダイ)という雑誌が全盛を極めていた時代がありました。リーダイはあちこちの新聞雑誌に載っていた記事を再構成し、幅広い分野から、それらを簡潔にまとめて、読者に提供していました。リーダイはまさにこのキュレーションをアナログの時代を通じてパイオニアとして実践してきたジャーナリズムだと言えるでしょう。現代において、キュレーション活動を成功させたのは「ハフィントン・ポスト」(the Huffington Post)というネット上の「新聞」です。「ワシントン・ポスト」ではありません。ハフィントン・ポストは3000人のブロガーによって投稿されるニュースを20のカテゴリーにわたって毎日記事を掲載しています。ここでいうブロガーとはそこらにいる素人の書き手ではありません。政治経済から科学者までの専門家である書き手を擁しています。ハフィントン・ポストは2011年1月に2800万人の米国からのユニークビジターを獲得することに成功しています(1)。
日本の代表的なキュレーション・サイトのひとつとして読者からの料理レシピを集めて提供している「クックパッド」を挙げることができます。同サイトの現在の投稿レシピ数は100万品、月間1,230万人が利用している超人気サイトです。クックパッドはまさにキュレーションの原則である、「集める-評価する-編集する-提供する」という流れを踏襲しています。そして個々のレシピの評価を決めるのは利用者自身なのです。
■キュレーションを応用する
キュレーションはネットだけでなく、実はもっと広い分野で実践されている考え方でもあります。例えば、百貨店業界で売り場を「[自主]編集」する、という用語がよく使われています。流通業とは世の中に出回っている多くの商品を「集め」、「評価し」、「編集し」(取捨選択)あるコンテキストに基づいて「提供」している存在です。流通業のバイヤーやマーチャンダイザーは、この意味でまさにキュレーターなのです。成功している流通業は例外なく優れたキュレーターです。米国の例でいえば、トレーダージョーズやホールフーズがまさにキュレーターとしての流通業の成功例として挙げられます。
さらに言えば、メーカーのマーケティング、とくに商品開発もまたキュレーションと言える側面をもっています。例えば、アップルのiPodなどは、それ自身技術的に大きなテクノロジカルな革新はもっていませんでした。中身を分解してみれば、すでによく知られたテクノロジーや日本製そのほかの部品を組み立ててつくられたのがiPodだったのです。神戸大学の延岡健太郎教授は、iPodは「安定型モジュラー型製品」であり「機能というよりイメージ、ブランドで高く売れた製品」と言っています(2)。
このように考えると、現代において、キュレーションという活動はさまざまな知的生産とビジネスの重要な部分を担っていると考えることができます。
■キュレーションを実践する
これを読んでいる方にとっても、キュレーションは一度読めばすぐわかるというものではありません。米国のキュレーションのウェブサイトをぜひご自身で一度確かめることが必要となります。チェックすべきウェブサイトとして、例えば、Newser, the Wrap, BuzzMachine, about.com , Media reDEFined, Techmeme , Vulture, Business Insider, Gawker, Tumblr, NYmag.com, Craiglist, Blogher, Demand Media, Glam Media, SB Nation,などが挙げられます。
これらのサイトの多くは日本では必ずしも知られているとは言えません。しかしこれからの日本で大いにヒントになるビジネスモデルやプラットフォームがここに隠れています。こうしたキュレーションの世界をより深く知るための本も2011年に何冊か出版されています(3)。2012年はキュレーションが本格的に日本で始まる年になるかもしれません。
[参照文献]
(1)Huffington Post Unique Visitors Surge To 28 Million In January
http://techcrunch.com/2011/02/10/huffington-post-unique-visitors-surge-to-28-million-in-january/
(2)延岡健太郎(2005)「モジュラー型製品における日本企業の競争力――中国情報家電企業における組み合わせ能力の限界」経済産業ジャーナル7月号
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/journal/0507/bs01.html
(3)『キュレーションの時代』ちくま新書、佐々木俊尚著、『石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力』潮出版社 勝見明著、『キュレーション』(プレジデント社、スティーブン・ローゼンバウム著、田中洋監訳、野田牧人訳
(1)Huffington Post Unique Visitors Surge To 28 Million In January
http://techcrunch.com/2011/02/10/huffington-post-unique-visitors-surge-to-28-million-in-january/
(2)延岡健太郎(2005)「モジュラー型製品における日本企業の競争力――中国情報家電企業における組み合わせ能力の限界」経済産業ジャーナル7月号
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/journal/0507/bs01.html
(3)『キュレーションの時代』ちくま新書、佐々木俊尚著、『石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力』潮出版社 勝見明著、『キュレーション』(プレジデント社、スティーブン・ローゼンバウム著、田中洋監訳、野田牧人訳
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