毎日新聞創刊150年記念
ワークショップ in
金沢美術工芸大学

毎日新聞は創刊150年を迎えた今年の取り組みのひとつとして、金沢美術工芸大学とのワークショップを行いました。社会を構成する人々の様々な声のひとつとして、若い世代である学生の声を紙面を通して伝える試みです。学生たちの声は、2月27日の毎日新聞朝刊にて、広告原稿といったかたちで、みなさまにお届けしています。テーマとなった「例えば、◯◯を「   」と呼んでみる」の「   」内の言葉はすべて学生のみなさんがワークショップで考えたアイデアです。

紙面

若い世代は何を考えているだろう。

いまから150年前、新橋-横浜間に「鉄道」という名の交通機関が開業、かつての「江戸城」は「皇居」とその名を変えています。毎日新聞は、それからずっと、時代を映す「言葉」を伝え続けてきました。これからも、社会と人をつなぐ、その言葉を、その声を伝えてゆきます。

150年の記念事業のひとつとして、これからの世代の声に耳を傾けるため、金沢美術工芸大学 視覚デザイン専攻の協力のもと、学生たちがワークショップで率直な意見やユニークなアイデアを出し合って制作した広告を掲載いたします。

社会の様々な現象に目を向け、「言葉」という観点から学生自身がポジティブにとらえた
経験や知識はまだ未熟でも、若い世代のフレッシュな、その「声」をお聞きください。

社会をつなぐ、言葉でつむぐ

2022年毎日新聞創刊150年

協賛

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ワークショップのながれ

金沢美術工芸大学の視覚デザイン専攻では、普段からユニークなアイデアを出す力を育てる教育を行っています。今回のワークショップでは視覚デザイン専攻2年生を対象に、半年間複数回に分けて行いました。

毎日新聞社からの声かけで始まったこのワークショップは、当初まったく題材は決まっておらず、「若い世代が自分たちの意見を新聞紙面という場を通して伝える」ということだけが決まっていました。具体的な企画は、半年近くの取り組みの中で徐々に決めていきました。

まずは、アイデアを出すトレーニングから始めました。新聞紙面とは関係のない題材で、頭の体操をします。20分間という短い時間で頭をフル回転させ、アイデアを考えます。

これは「勇気」という、言葉から連想するおもしろい絵を考えているところです。言葉は一切書かず、絵だけで伝わるユニークなアイデアを紙に描きます。

ある程度の力がついたところで、社会に目を向けるための題材に挑戦します。「令和のヒーロー」「令和の新名称」というふたつのお題について考えました。「令和のヒーロー」では、2022年の新しい時代にふさわしい、かっこいいと思われる行いをする人について個人個人の価値観をアイデアにします。「令和の新名称」では、社会にあふれるさまざまな言葉、用語についてその意味と現象そのものについて考え、別の視点でとらえたときの新しい名称のアイデアを考えます。

グループワークではなく、それぞれが自分自身なりの調査や知識を元に題材に取り組みます。限られた制限時間の中で考える場合もあれば、自宅で考えてきたものを持ちよる場合もありました。回答はA4サイズの紙に記入し、みんなで、机の上に並べていきます。並べ終わったら、そのまわりをぐるぐるとまわりながら、それぞれが全員互いの案を見ます。

互いの案をじっくりと見終わったら、自分がよいと思う案にシールを貼って投票し、学生同士の価値観で、どの案がよかったか?といった確認をし合います。

今回の「例えば、◯◯を「   」と呼んでみる。」この企画は、こうして集まった案を集めた結果、できあがりました。掲載のために選んだ呼び名の案は、原稿の中では「なぜ、その案を出すに至ったか?」といった、思考のプロセスも学生自身の言葉で文章にしてもらいました。

半年間のワークショップは、社会に目を向けながらアイデアを出すよい体験になったと思います。この体験を糧にして、ここからまた卒業までにそれぞれが自分たちの制作に活かしていくのではないかと思います。金沢美術工芸大学視覚デザイン専攻2年生のみなさん、おつかれさまでした!

制作をおえて

担当教員・学生

下浜臨太郎

下浜臨太郎(しもはま・りんたろう)/金沢美術工芸大学 視覚デザイン 教員

私自身、20歳前後の頃に日本社会全体のことに思いをめぐらせることは難しかったです。しかし、ワークショップとして前向きに考えるきっかけがあれば、少し俯瞰した目線で自分たちのことを考えてみる気にもなるのだと思いました。「若い世代は日本の政治に興味がない(投票に行かない)」とよく言われますが、当世代に原因があるのではなく、システムや文化に原因がある気がしてなりません。新しい世代が「自分たちが声をあげることによって社会を更新できるんだ」という希望を持てるシステムが求められています。ワークショップを行うことにより、それは私も含めた上の世代こそがつくらねばならないと考えさせられました。新聞原稿に掲載された言葉により、誰かを傷つけてしまうかもしれない。そういったことに考えをめぐらせながらも自分たちの生きている社会について考えるという体験は教員、学生ともに貴重な時間でした。

青山豊野(あおやま・とよの)/参加学生

様々なジャンルの社会問題に触れる機会になり、世の中には差別と捉えられるような言葉が溢れていることを痛感した。新聞広告という媒体だからこそ伝えられるものがあると考え、その上での言葉選びも難しかったが、言い表し方を変えるだけで捉え方も変えられるということも実感した。直接的な解決にはならずとも、自分の中での考え方は変化したように思う。

伊藤優汰(いとう・ゆうた)/参加学生

今回、新聞広告の制作に参加してみて、自分たちの考えが一つの形として、世間の方々に発信されるという貴重な体験ができてとても勉強になりました。SNS 社会になって様々な言葉がどんどんと生まれていく世の中で、良い言葉も悪い言葉にも 改めて考え直してみると、また違う言葉として見え方が変わるという試みがとても今の時代らしく 、楽しく、そしてその言葉の意味をもう一度改めて考えさせられました。言葉というものはとても強く、使い方、伝わり方、人によって如何様にも変化するもので、 新しく面白い言葉が考えられないか、とても深く考えながら取り組むことができました。

田嶋千寛(たじま・ちひろ)/参加学生、原稿のデザイン担当

世の中の深刻な課題にポジティブな言葉で向き合おう。これはただ楽観的になるということではありませんでした。実際に新聞紙面で発信されて、たくさんの人に届けられることを思って、言葉の意味や広がりを慎重に悩みました。学生一人ひとりの率直な考え方を手書き文字や易しい色合いのイラストを添えてまとめることで、明るく光が差すような考え方として伝わるよう工夫しました。親しみをもって読んでいただけると嬉しいです。

監修

一倉 宏

一倉 宏(いちくら・ひろし)/コピーライター

ふだん無意識のうちに常用している言葉も、社会的、歴史的といった様々な背景をもっています。そして時代の意識とともに変化していきます。今回、金沢美大の学生たちが、言葉から社会の課題について考えるこの試みは、大変興味深いものでした。言葉の「言い換え」には、背景に照らして大変デリケートな側面もあります。良識に反しないか。誰かを傷つけないか。今回はあくまで、常用の言葉をいったんひっくり返すことにより、新しく見えてくるものを得るための試みと言えるでしょう。それぞれが社会の課題をリアルに受け止めたうえで、鋭さにユーモアも秘めた表現をしています。このユニークな発信の掲載紙面には、多くの読者が関心を寄せるのではないでしょうか。

葛西 薫

葛西 薫(かさい・かおる)/アートディレクター

この広告アイデアは、美大生の皆さんの話し合いから生まれたものです。日頃ニュースなどで目にする用語に感じるある種の違和感に対して、どうなれば良いのかを皆で考え、制作されました。こうして呼び方を言い変えることで、少しでも社会のプラスに正そうとする皆の思いがここに提示されてます。「表現する」ことと「見つめる」ことは切り離せません。きっとこうして「言葉に表す」ことで、自分自身の考えを知る良い機会となったことでしょう。この広告を見た読者は、未来を担う若者たちが、今をどう見つめているのかを知り、ともに考えるきっかけとなれば、このワークショップの目的が叶います。ぜひ隅々まで読んでください。