◇選評

「その日をつくる、その日を残す」

国井美果　コピーライター

新聞広告は記事と並んで「その日」をつくるものだと思う。今年の受賞作はそんな新聞ならではのタイミングを巧みに捉えたものが印象的だった。最高賞は「いきもの東急不動産」。世界環境デーの出稿。都心のビルの屋上で、シジュウカラの営巣に成功した様子を４面にわたり連続写真を掲載した。Webに行けば動画も見られるわけで、QRコードを張る手法もある。でもあえて鳥と巣箱だけの素朴な紙面にしたことが、自然との共生というテーマにおおらかな説得力を醸し、審査員の表情も和んでいた（と思う）。優秀賞の味の素「フードロスラ」は、年間約244万トンという家庭の廃棄食品を哀愁漂う巨大怪獣に例えて、説教臭さとは無縁のエンタメ感と本気感が押し寄せた（動画版の監督は「ゴジラ－1.0」の山崎貴氏）。元旦の出稿の「講談社」は、赤い背景に黒柳徹子氏の頭をお供え餅に見立てて、お正月に見たいビジュアル・聞きたいメッセージを丁寧に展開。しっかりと記憶に残った。「三井住友海上」は、クレヨンしんちゃんのキャラクターを使って、日常に浮かび上がる「その日」に当てたメッセージを展開した。3月11日（東日本大震災の日）、7月1日（一年の半分の日）、10月1日（内定式）。それぞれの日の選定も良くて、その日を迎え挑戦していく人々の背中に時にそっと手を当て、時にトンと押し出すような繊細で温かいまなざしのコピーが心に寄り添い、｢その日｣を残した。