2025年第43回受賞者一覧(敬称略) List of Award Winners

●大賞 GRAND PRIX
岩井良太 Ryota Iwai/AURALEEデザイナー
●新人賞・資生堂奨励賞 NEWCOMER'S PRIZE
舟山瑛美 Emi Funayama/FETICOデザイナー
●鯨岡阿美子賞 AMIKO KUJIRAOKA MEMORIAL AWARD
宮浦晋哉 Shinya Miyaura/株式会社糸編 代表取締役、ファッションキュレーター
●話題賞 PEOPLE'S CHOICE AWARD
YKK株式会社「YKKファスニングアワード」YKK Corporation「YKK FASTENINGAWARDS」
●選考委員特別賞 SPECIAL JURY PRIZE
皆川明 Akira Minagawa/minä perhonenデザイナー

受賞者紹介 Award Winners

大賞 GRAND PRIX
岩井良太
Ryota Iwai
AURALEEデザイナー
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025SS collection
  • 2025SS collection
  • 2025SS collection
  • 2025SS collection
  • 2025SS collection

略歴Profile

岩井良太(いわい・りょうた)

1983 年生まれ。
様々なブランドでパタンナーやデザイナーの経験を積んだ後、2015 SS にAURALEE を立ち上げる。2017 年9月には、南青山にブランド初めての直営店舗がOPEN。
2018 年には FASHION PRIZE OF TOKYO 2019 を受賞し、2019AW より、パリファッションウィークにてコレクション発表を開始。2019 年には、毎日ファッション大賞、新人賞・資生堂奨励賞を受賞した。

受賞のことばWords of the award

この度は、毎日ファッション大賞を頂戴し、誠にありがとうございます。身に余る光栄であり、選考委員の皆様に心より御礼申し上げます。

オーラリーを立ち上げてから、今年でちょうど10年を迎えました。日本の生産背景を生かし、最高のものづくりをしたいという思いで始めた当初は、このような賞をいただける日が来るとは想像もしていませんでした。

ここまで続けてこられたのは、日々支えてくださる全国の工場や職人の方々、原料を提供してくださる海外の産地の皆様、共に歩んできたスタッフ、そして私たちの洋服に共感してくださるお客様のおかげです。この場をお借りして、改めて深く感謝申し上げます。

これからも背伸びをせず、自分たちらしいものづくりを大切にしながら、少しずつでも成長を重ねていければと思います。今回の受賞を励みに、より一層精進してまいります。

受賞者に聞く

取材に答える岩井良太さん=内藤絵美撮影
取材に答える岩井良太さん
=内藤絵美撮影

 「AURALEE(オーラリー)」には、光の当たる場所という意味がある。コンセプトは、朝が似合う服。素材と丁寧に向き合い、こだわり抜いた生地を用いた服は、シンプルでありながら品があり、選考委員からも「上質な服の代表格」と評価を受けた。
 2015年にブランドを設立し、17年に東京・南青山に旗艦店をオープン、19年にパリ・コレクション参加、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞、そして今回の大賞。「少しずつ成長できている結果が、大賞につながったと思うと、よりうれしい。同時に、いただいた期待に応えなければという責任も感じています」。一つ一つ言葉をかみしめるように語った。
 ファッションへの興味の入り口は、中学生のころ、兄に連れて行ってもらった地元・神戸の古着屋街だ。大学時代は「いつかは自分の店を持ちたい」と思いながら、古着店でアルバイトをしていた。デザイナーに〝転身〟するきっかけは、現在マーケティング担当で、当時交際中だった妻の「そんなに服が好きなら、作る方に進んだら」という一言だった。上京し、文化服装学院夜間部に通いながら、雑誌「装苑」編集部でアルバイト。その後ニットメーカー「norikoike」などで、パタンナーやデザイナーとして経験を積んだ。「糸からこだわって作る過程や、卸先や工場の方との接し方など、あらゆることを教わりました。今の自分の芯になっています」
 「生地ありきでデザインを考える」というほど、徹底的に素材にこだわっている。すべてオリジナルの生地は材料を厳選し、糸の染めから手がける。「どういう原料を用意して、どういう糸を紡績してもらって、どういう織り方なり編み方にするか。シーズンが終わって次のシーズンまでに準備期間が半年あるとしたら、その半分以上は素材開発にあてています」
 カシミヤの原料となるカシミヤヤギを見にモンゴルに行ったり、羊を見にオーストラリアやニュージーランドに行ったり。アルパカを見るためだけにペルーまで行ったこともある。「どんな人が、どんな環境で、どんなふうに育ててその毛を刈っているのかを、ただ見てみたいというのもあります。でも、すべての過程を見ていれば、ああして大切につくられてきたものだから、大事に使わせてもらって、いいものをつくろうという気持ちが強くなる」
 優しいニュアンスの色もオーラリーの魅力の一つ。シーズンごとの色選びは大変だ。何千色とある中から、まず100色程度を選び、さらに30~40色へ、最終的に数色にまで絞り込む。「見た目はいい色でも、実際に服になって着るとなると、また違う。毎回『色出し』にはものすごく時間がかかる。いつも迷いながらやっています」
 デザインの着想源は、日常生活の中にある。朝起きていつもの朝食を食べ、自転車でいつもの公園を通って出社し、いつもの店で昼の弁当を買う……。「ルーティンの生活の中でのちょっとした出来事に心が動かされるんです」
 23年秋冬シーズンから設け始めたコレクションテーマも、そうした何げない日々の中から材を取る。例えば26年春夏シーズンのテーマ「春の到来」。「ある日、自転車で通勤している時に、春一番のような突風が吹いたことがありました。全然前に進めなくて大変でしたけど、もう少ししたら暖かくなるんだなというのを感じて、何だか、とてもうれしくなったんです。その感覚をテーマにしました」
 次の10年の目標を聞くと「大きな目標は考えていない」との答えが返ってきた。「地道に一歩ずつでいいから前進していきたい。この10年と同じように、目の前のことをきちんとこなして、前のシーズンよりちょっとでもいいものをつくりたい。毎日同じことができるのもうれしいし、それが長く続いていけばもっとうれしい。あとは仕事の後に銭湯に行けたらいいです」
 等身大の言葉に誠実さがにじむ。過剰ではないけれど、洗練された気品のあるオーラリーの服は、確かにこの人がつくっているのだと感じさせる。【小松やしほ】

新人賞・資生堂奨励賞 NEWCOMER'S PRIZE
舟山瑛美
Emi Funayama
FETICOデザイナー
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection
  • 2025AW collection

略歴Profile

舟山瑛美(ふなやま・えみ)

1986年茨城県生まれ。高校卒業後に渡英し、帰国後エスモードジャポン東京校を卒業。国内のコレクションブランドで経験を重ね、2020年に 「The Figure: Feminine(その姿、女性的)」をブランドコンセプトに、自身のブランド「FETICO」を設立。2022年には「JFW NEXT BRAND AWARD 2023」「TOKYO FASHION AWARD 2023」を受賞。現在は東京を拠点にコレクションを継続的に発表している。

受賞のことばWords of the award

このたび「毎日ファッション大賞」にて、新人賞・資生堂奨励賞をいただけたこと、大変嬉しく思っております。
受賞の知らせを受けて最初に浮かんだのは、日々私の活動を見守ってくれている家族、ブランドを支えてくれているスタッフ、協力いただいている生地屋さんや工場の方々の顔でした。
そして、FETICOの服を手に取ってくださったお客様、魅力を伝えてくださるお取扱店の皆さまにも、心からの感謝を申し上げます。
ブランド立ち上げから5年。これまでFETICOを育ててくださったすべての皆さまに支えられ、今があります。
女性が自分自身を自由に表現できることの尊さと、その美しさを、これからもFETICOらしく、誠実に追求してまいります。

受賞者に聞く

取材に答える舟山瑛美さん=内藤絵美撮影
取材に答える舟山瑛美さん
=内藤絵美撮影

 印象的なブランド名は、20歳のころの自身のニックネームからつけた。フェティッシュなファッションが好きだったことが、あだ名の由来だという。
 その名の通り、FETICOは肌を露出しボディーラインを美しく見せる服が多い。服作りの根底にあるのは、舟山さんの「女性の体は美しい」という思いだ。
 「みんなそれぞれ違って美しい。私自身、いろいろとコンプレックスがあります。そんな中でも『この服だとテンションが上がるな』と思うことがある。そういう服があると、その人の自信にもつながるし、生きやすくなる。(体を)隠してネガティブになるより『ここは美しいから見せよう』と思ってもらいたいんです」と話す。
 5歳年上の姉の影響で、ファッションが好きな子どもだった。小学校を卒業するころには「洋服に携わる仕事がしたい」という思いを抱くように。その目標をかなえるため、ファッションデザインやビジネスを学べる高校に進学した。
 高校卒業後はロンドンへ。インターンや学校を通してさらにファッションの知識や経験を深めた。舟山さんにとってロンドンは「個人が独立していて、他人に干渉していない」街だったという。「私は派手な洋服を着ていたので、地元では浮いていて好奇の目で見られることがありました。でもロンドンでは、『日本人の女の子が面白い格好をしている』とポジティブに見てもらえたんです。すごく楽に感じました」と振り返る。
 1年ほどロンドンに滞在した後、さらに知識を習得するため、服飾専門学校のESMOD JAPON TOKYOに進学。卒業してからは企業デザイナーとして腕を磨いた。
 念願だった自身のブランドを立ち上げたのは2020年。複数のブランドで研さんを積む中、「もう私次第で始められる」と覚悟が決まった。スタートはコロナ禍と重なり、緊急事態宣言発出の1週間前に展示会をやるという異例の船出となった。だが、そのような状況でも客が来てくれたことで、「逆に手応えを感じた」と振り返る。
 ブランドのコンセプトを決める際、「自分が年を重ねても、時代が変わっても、自分にとって変わらないことは何か」と考えた。「自分が女性であること、そして、女性の造形は美しいという思いは何があっても変わらない。ブランドを続けていく中で、女性的な美しさとは何か、探り続けることになるだろうと思いました」。その思いが「The Figure:Feminine(その姿、女性的)」というブランドコンセプトに集約された。
 舟山さんが探り続けている「女性的な美しさ」に対する「確固とした答えはない」という。だが、「FETICOは、その女性自身が、自分がどうありたいかを自由に表現できることを『女性的』と表現したい」と話す。その人自身が心地よくいられるための選択を大切にしているからこそ、FETICOの服は着る人それぞれの美しさを引き出しているのだろう。
 設立から5年。FETICOは多くの人に愛されるブランドに成長した。「自分が思っていたよりもブランドに反響をいただきました。見たことのない景色をFETICOが見せてくれている。目まぐるしいけれど楽しいです」とほほ笑む。今後の目標は店を持つこと。「ブランドの世界観をいつでも見せられる場所を作りたい。洋服だけでなく、デザインが必要とされる場でFETICOを表現していきたいです」と先を見据える。
 舟山さんにとってファッションは「内面を映し出すもの」だと語る。「何も言わなくても人に自分がどういうものかを伝える要素。だからこそすごく重要ですし、時には背中を押してくれる。そういう『いざ』という時のブランドでありたいと思っています」【松原由佳】

鯨岡阿美子賞 AMIKO KUJIRAOKA MEMORIAL AWARD
宮浦晋哉
Shinya Miyaura
株式会社糸編 代表取締役、ファッションキュレーター
  • 2017年に開校した「産地の学校」。
    国内産地やテキスタイルのことを学びに日本各地から受講生が集まるコミュニティです。
  • 繊維・テキスタイルを体系的に学ぶ場として2017年に開校した「産地の学校」
  • 「産地の学校」で織物工場に見学。こちらは繊維産地をまわるきっかけとなった元みやしん。
  • デザイナー向けに産地を案内するバスツアーは年10回ほど実施
  • 世界三大毛織物産地として知られる尾州産地にデザイナーを連れてバスツアー
  • 創業から年間200社ほどの工場を訪問するルーティーン。頻繁に通う工場もあれば、新規開拓もしています。
  • 中国から来日した学生向けに日本の産地についてのセミナー
  • 名古屋芸術大学のテキスタイル学科には客員教授として通い、
    学生たちとテキスタイル開発から販売まで一緒に取り組みました。
  • 2022年に老朽化により閉館したコミュニティスペース「セコリ荘」
  • コミュニティスペース「セコリ荘」は築100年の民家を改装して利用 
  • 築100年の民家を改装したコミュニティスペース「セコリ荘」。
    テキスタイルの展示会や交流会など頻繁に開催していました。
  • コミュニティスペース「セコリ荘」は築100年の民家を改装して利用していた
  • TEXTILE JAPANとして展示会中の外観。タイベック素材に顔料プリントしてサインにしています。
  • イタリアのテキスタイルの専門大学院生たちと国際交流
  • ヨーロッパのテキスタイルのトレンドリサーチで、年2回の定例視察をしているテキスタイル展「ミラノウニカ」
  • 展示会「IFF MAGIC」にて、日本全国のテキスタイルを集めたインスタレーションを開催。
    生地1つ1つにストーリーを書きました。
  • 知多木綿の産地で織物工場の取材中
  • 知多木綿の産地で手織りの職人さんとの対話

略歴Profile

宮浦晋哉(みやうら・しんや)

1987年千葉県生まれ。大学卒業後、全国の繊維産地を回り始める。2013年、東京・月島に日本全国のテキスタイルが集まるコミュニティスペース「セコリ荘」を開設。2017年に株式会社糸編を設立しキュレーション事業を展開。クリエイティブの橋渡しやものづくりのサポート、コンテンツ制作、研究などを行うほか、大学・専門学校で教鞭を執る。創業以来、年間200箇所以上の工場を訪れながら繊維・アパレル産業に貢献。

受賞のことばWords of the award

このたび鯨岡阿美子賞という栄誉をいただき、心より感謝申し上げます。13年前、興味のままに産地を回り始めたとき、全国の職人さんたちは怪しい存在であった自分を受け入れ、テキスタイルの魅力や可能性を現場で一から教えてくださいました。その感謝の時間の積み重ねで、今日まで活動を続けてくることができました。

そして、小さな組織でも事業を展開できているのは、いつも伴走してくれる社内外の仲間のおかげです。皆さんに教えていただいてきた産地やテキスタイルの魅力や可能性を、これからも広く伝えていくことが自分の務めです。本賞を励みに、これからも産地に通い、人と人を繋ぎ、未来への挑戦を続けてまいります。

受賞者に聞く

取材に答える宮浦晋哉さん=宮本明登撮影
取材に答える宮浦晋哉さん
=宮本明登撮影

 宮浦晋哉さんの仕事の内容は幅広い。繊維産地ツアーの開催、学校の運営、講演活動……。もし一言で表現するなら、「繊維産地と人をつなげる活動」と言えるだろう。
 三つ上の兄の影響でファッションに関心を抱くように。都市開発などを学べる大学に進学したが、ファッションへの思いを断ち切れずダブルスクールでファッションの専門学校の夜間コースに通った。「都市開発の物差しは数十年単位。一方でファッションはサイクルが早く、今日服を作って、明日着られる。楽しいと思いました」。ファッションへと人生の舵を切り、それまで通っていた大学と専門学校は辞め、杉野服飾大学に編入。本格的にデザインや服の縫い方を学んだ。さらに、授業のない朝や夜には縫製工場でアルバイトをして実務を学んだ。さまざまな経験を重ねる中で「自分はデザイナーになりたいわけではない。デザイナーをサポートする立場になりたい」と気付いた。
 大学卒業後、ファッションにおけるコミュニケーションの手法について学ぶため、ロンドンに留学。海外でも日本のテキスタイルが評価されていることを知り、繊維産地への関心が高まっていった。
 そんな折、東京の老舗テキスタイルメーカー「みやしん」が廃業するという情報を耳にした。衝撃を受けた宮浦さんは、みやしん代表(当時)の宮本英治さんのもとへ足を運んだ。宮本さんから「全国の産地を見た方がいい」と背中を押された宮浦さんは、繊維産地を巡る旅に出た。
 産地の現状を見る中で聞こえてきたのは「デザイナーと距離がある」「このままではやっていけない」という織物職人たちの悲痛な声だった。大学でファッションを学んでいても気付かなかった産地の現実。「知らなければ興味が湧かない」という自身の経験から、「自分が産地のことを語る人になろう」と決意した。2013年からは大学や専門学校などを回り、産地の抱える問題や現状について語るようになった。
 さらに、古民家を改修したコミュニティースペース「セコリ荘」を立ち上げ、テキスタイルに関心のある人々の集う場を創出した(22年に終了)。17年には繊維産業を体系的に学ぶ「産地の学校」を設立した。産地のことを好きな人を増やすことが目的で、これまでに学生や社会人ら700人ほどが巣立っていった。「産地好きが増えれば、社会は良くなると思っています。繊維産業の課題は知られていないこと。知ってもらえれば、産地ブランドの商品を買ったり繊維産業で働く人が増えたりするかもしれない。産地に飛び込む人もいれば、産地の学校で学んだことを会社に持ち帰っていかす人、起業する人もいる。いろんな関わり方があります」
 同年には株式会社糸編に改組。「産地の学校」の他にも全国の魅力的なテキスタイルを紹介するプロジェクト「TEXTILE JAPAN」を展開するなど精力的に発信を続けている。忙しい日々を送りながらも、多い時は年に300カ所ほどの繊維産地を巡る。「仕事とは思っていないですね。好きなことをやっているだけです。休んでいたくない」と笑う。
 これまでの功績が評価され、長らくファッション業界の発展に寄与し、功績のあった人やグループに贈られる「鯨岡阿美子賞」に輝いた。「恐縮です。業界に長く関わった先輩方が受賞している印象があったので、自分はまだまだ駆け出し」と謙遜する。
 産地とデザイナーをつなげる活動を始めて12年。「技術ある職人さんはたくさんいる。こんなにいい技術があるのに失われていくのがもどかしい。自分が見て感動したものを広めたいです」。変わらない情熱を胸に、宮浦さんは走り続ける。【松原由佳】

話題賞 PEOPLE'S CHOICE AWARD
YKK株式会社「YKKファスニングアワード」
YKK Corporation「YKK FASTENINGAWARDS」
  • 入賞作品によるファッションショー
  • YKKファスニングアワードトロフィー
  • 第24回授賞式_受賞者・作品整列
  • 第24回ファッションショー_フィナーレ
  • 第25回授賞式グランプリ岩野さん
  • 個別講評
  • 第24回入選作品一覧
  • ゲストコレクション‗YUTASETOGAWA
  • ゲストコレクション_BLURRY SPACE
  • 第25回アワード キービジュアル

略歴Profile

YKK株式会社「YKKファスニングアワード」

「YKKファスニングアワード」は、2001年に創設された学生を対象とした日本最大級のファッションデザインコンテストです。「人が身に着けることができる作品」をテーマに、ファスナー、面ファスナー、バックルやスナップ・ボタンといったYKKのファスニング商品の機能を活かした提案を募集しています。本アワードへの参加を通して、才能ある若きクリエイターが“ジャパンオリジナル”を世界に向けて発信し、グローバルに活躍することを願っています。

受賞のことばWords of the award

学生の皆様と共に歩んできた「YKKファスニングアワード」が、25周年という節目に「毎日ファッション大賞・話題賞」を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。この栄誉に、未来への希望を感じながら、社員一同、深い喜びをかみしめております。
『新たな価値の創造により社会に“善”を尽くし続ければ、やがて“善”は限りなく世界を巡ってゆく』——この言葉の通り、本アワードの歩みはYKK精神「善の巡環」に通じるものと感じています。
2001年の創設以来、累計147,304点もの応募を通じて、学生の皆様がYKKのファスニング商品と真摯に向き合い、創造力あふれる提案を届けてくださいました。挑戦と情熱に満ちた作品の数々、そして歴代審査員や制作チームをはじめ、支えてくださる関係者の皆様のご尽力により、本コンテストは育まれてまいりました。本アワードを通じて生まれた絆は、YKKにとってかけがえのない財産です。ファッションの未来を拓く学生の皆様による挑戦が、清らかな水面に幾重にも広がる輪のように 世界へ広がっていくことを願い、世界70の国・地域に事業を展開しているYKKは海外でも皆様の挑戦を今後も支援し続けてまいります。そして、YKKも「業界をリードするわくわくする商品・サービスの提供」に挑み続けます。
YKK株式会社 代表取締役社長 松嶋耕一

受賞者に聞く

YKKの松嶋耕一社長 前回の受賞作品とともに=小林努撮影
YKKの松嶋耕一社長 前回の受賞作品とともに
=小林努撮影

 今年25回目の節目を迎える。創設当初、600点余りだった応募点数は、昨年には8600点を超え、今や日本最大級のファッションデザインコンテストへと成長した。主催する部材メーカー、YKKの松嶋耕一社長は「記念すべき年に評価をいただけて、うれしいの一言です。ファッションに関するたくさんのコンテストがある中で、規模や長く続けてきたことで、業界に貢献できていると認めていただけた。僕よりも、社員が喜んでいると思います」と満面の笑みで語った。
 若い才能が羽ばたくきっかけになればと始めたアワードだが、そこにはファスニング事業で世界トップ級のシェアを誇るYKKの弱点も関わっているという。創業以来、いわゆる「標準品」を大量生産することでコストダウンを図って、グローバルに事業を展開してきた。「良い物をより安く提供しようとやってきましたが、ファッション性という点ではあまり強くなかった。現在でも課題として認識しているぐらいです」。学生たちの提案から、ファスナーやスナップ&ボタンなど「小さく地味な部材」の使い方のヒントを得て、新たな可能性が探りたいとの期待もあれば、YKK製品の存在感をより高めたいとの思いもある。
 応募の共通テーマは人が身に着けられるもの。それ以外は自由だ。当初はファスニング商品を目立つように使った個性的なデザインが多かったが、年々、使い方もこなれてきて、着る人や生活に寄り添った、機能を生かすデザインが増え「よりアワードの目指す姿に近づいてきた」と実感しているという。受賞作の中には商品化されたものもあり、気鋭のデザイナーとなった受賞者もいる。松嶋社長は「続けてきた意義はここにあると思いますね。若い人たちが考えるファスナーの使い方は、私たちが商品を開発するうえでの勉強にもなりますし、新たな気づきを与えてくれてもいます」と話す。
 今年は従来のグランプリ、優秀賞、審査員特別賞、YKK特別賞のほかに、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した「Circular Design特別賞」を設けた。創業以来の「企業は社会と共存してこそ存続でき、利益を分かち合うことで存在価値が認められる」という「善の巡環」の精神や、廃棄ファスナーを減らす「ZIP to ZIP」、単一素材で部材を生産する「モノマテリアル化」などYKKが実践する「循環型社会」への取り組みを踏まえ、「25年記念のイベントにしたい」との意味合いも込めた賞だ。使用後のリサイクルやアップサイクルを前提にしたデザインを提案してもらう。
 景気の良しあしに業績が左右される企業が、メセナ活動を継続していくことは難しい。しかし、松嶋社長は「『善の巡環』は、貢献することで巡り巡って返ってくるという考え方です。始めた以上は、単年度の業績うんぬんでやめてしまうのでは意味がない。やり続けることで、企業価値を高めるという我々の目標にも近づいてくる」と言い切る。「グローバルな人材育成という意味では、応募する学生さんは多国籍になってきました。しかし、(モードの最先端である)ヨーロッパやアメリカに浸透するまでには至っていない。あちらで行われている同趣旨のコンテストとの交流など、次の仕掛けを考えていきたい」。さらなる展開への意欲を見せた。【小松やしほ】

選考委員特別賞 SPECIAL JURY PRIZE
皆川明
Akira Minagawa
minä perhonenデザイナー
  • tambourine 1999-00aw
  • 2526AW
  • 2526AW
  • life puzzle_mural
  • imagine2012-13aw_originalart_SNM
  • oasis
  • スウェーデン国立美術館での展示『Design = Memory Akira Minagawa&minä perhonen』
  • つづく展
  • つづく展_2

略歴Profile

皆川 明(みながわ・あきら)

minä perhonenの前身となるブランドminä を1995年に設立。(2003年よりminä perhonenとして活動。)手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、ファッションをはじめ、インテリアやテーブルウェアなど生活にまつわるもの、店舗や宿などの空間ディレクションまで幅広い領域で、日常に寄り添うタイムレスなデザインを手がける。2025年11月22日より、世田谷美術館にて「つぐ minä perhonen」が開催される。

受賞のことばWords of the award

この度は毎日ファッション大賞におきまして「選考委員特別賞」に選んで頂きましたことを深く感謝いたします。ミナ ペルホネンは今年で30年目を迎えました。国内生産に拘りながらテキスタイルを開発してまいりました。私は自分の人生の持ち時間でこのファッション産業がより良い環境になることを願っておりましたが結果的にはその環境を未だ十分につくることができておりません。今後も引き続きミナ ペルホネンといういちブランドの為ではなく、今後の未来に広がるファッションやテキスタイル産業の自由で幅広いクリエーションの為に更なる努力をしてまいりたいと思います。この度の賞はその励みとなり、これからの私たちの志を後押ししてくれるものとなります。今後も慢心することなくこれからの日々の物づくりがお客様や社会の喜びの価値として根付くように精進してまいります。世界が混沌として不安と変化の多い時代を迎える今、デザインが人の暮らしに光を与えるものと信じております。

受賞者に聞く

取材に答える皆川明さん=吉田航太撮影
取材に答える皆川明さん
=吉田航太撮影

 皆川明さんと毎日ファッション大賞の縁は長い。大賞受賞から19年。選考委員の評価を集め、選考委員特別賞に輝いた。「今年がブランド設立30周年の節目。長年やってきたことが評価されたようでありがたく思っています」と目を細める。
 高校まで陸上競技一本だった皆川さんが、ファッションの世界に触れたのは18歳の時。ヨーロッパに憧れ、訪れたパリのファッションショーでバックステージを手伝ったことが、皆川さんの人生を変えた。  「ファッションは、これまで縁のなかった世界。お手伝いもうまくいったわけではありません。でも、うまくいかないことはとても大事なことだと思いました。一生の仕事をするなら、なかなかうまくいかない道を進んだ方がいいだろうと思い至りました」
 帰国後は文化服装学院の夜間部に進学。縫製工場や型紙を作るアトリエなどで勤め、洋服を作るプロセスをさまざまな角度から学んだ。当時、日本の景気は下向きで生地作りも海外へと舞台が移りつつあった時代。「日本の産地を元気にしたい」との思いを胸に、1995年に「ミナ」を立ち上げた。
 だが、当初は苦労の連続だった。生計を立てるため、ブランド設立当初は3年ほど、魚市場でアルバイトをした。朝4時から昼までは魚市場で働き、昼過ぎからは服作りに励んだ。魚市場で働く中、最善の素材を選び、それを良い仕上げで形にする大切さを学んだ。「今でもミナペルホネンの物作りの根幹になっています」と振り返る。
 当初からこだわり続けるのは、テキスタイルから自分たちで手掛けることだ。「生地作りが国内から海外にフェーズが移っていくのはさみしい。私は学業としてテキスタイルを学んだことがないので、工場で教わりながら作らせてもらいました。そうした経緯もある中で、(日本の)工場の仕事が減らないようにしたいと思ったんです」。その言葉通り、タータンチェックなど一部を除き、大半のオリジナルテキスタイルを国内で作り続けている。
 2000年には東京・白金台にアトリエ併設の直営店をオープン。03年にはブランド名を「ミナペルホネン」に改称した。ブランドの規模が広がっていく中で、フィンランド語の「ミナ(私)」に「蝶(チョウ)」を意味する「ペルホネン」を加えた。
 ブランドの名そのままに、まるでチョウが羽ばたくように皆川さんの活躍は広がっていく。英国やスウェーデンのテキスタイルメーカーやイタリアの陶器メーカーなど、国内外を問わずさまざまなブランドとコラボレーション。また、洋服のデザインだけでなく、家具や宿の監修、食など、その活動の場は幅広い。「物自体をデザインしているというよりも、そのデザインがどのようにプラスの感情につながっていくかということを考えます。どんなカテゴリーに関わる時にも共通している考えなので、(ジャンルで)壁を感じることはあまりありません。素材や作るプロセスが違うだけです」と話す。
 皆川さんはブランド設立当時、「せめて100年続くブランド」と紙に記した。その言葉に込めた想いは「長期的な他力本願」だという。「自分の不器用さと能力を自分なりに分かっているので、一人で大きなことをやり遂げるには、資質が足りないだろうと思っていました。ただ、続けていくうちに仲間が増えていく。仲間の能力を継ぎ足していくことで、ミナペルホネンというブランドのやれることが増えていくという期待がありました」
 ブランド設立から30年。ミナペルホネンは今、過渡期に差し掛かっている。皆川さんは代表取締役を4年前に交代し、現在はデザイナーとして活躍を続ける。「自分が必要とされない組織になっていくのがいい空気感。新しい物を生み出すだけでなく、ミナペルホネンがこれまで作ってきたものを受け継ぐことも次の世代の役割です。新たな時代が来ていると思います」
 皆川さんがブランド設立時に思い描いた未来を実現するため、ミナペルホネンはこれからも羽ばたき続ける。【松原由佳】

※敬称略

選考経過 Selection process

<大賞>岩井良太(AURALEEデザイナー)
 ノミネートされたのは、井野将之(doublet)、岩井良太(AURALEE)、Onitsuka Tiger、高橋盾(UNDERCOVER)、高橋悠介(CFCL)、中章(AKIRANAKA)、中里唯馬(YUIMA NAKAZATO)、長見佳祐(HATRA)、中村三加子(MIKAKO NAKAMURA)、皆川明(minä perhonen)―の10件。選考委員に2人ずつ推薦してもらい、絞り込みを行った。結果、井野、岩井、Onitsuka Tiger、高橋盾、高橋悠介、中里、皆川の名前が挙がった。
 「シンプルでありながらリュクス、ジェンダーレス、ミニマル、タイムレスといった時代に刺さるクリエーション」と評価を受けた岩井、3Dニットの技術力の高さはもちろんのこと、「日本のブランド初のBコープ認証取得」など、デザイン以外の取り組みも評価された高橋悠介、全選考委員がクリエーションやブランドとしての姿勢を評価した皆川を中心に議論がおこなわれた。  決選投票の結果、大賞には岩井が選ばれた。しかし、ファッションを「消費するだけでなく、継承していく」という思想を貫く皆川を顕彰したいという声は根強く、特例として、選考委員特別賞を贈ることとした。
<新人賞・資生堂奨励賞>舟山瑛美(FETICOデザイナー)
 ノミネートされたのは舟山のほか、浅川喜一朗(ssstein)、靱江千草(BOWTE)、玉田達也(Tamme)、中島輝道(TELMA)、長谷川照洋/ウィング・ライ(GURTWEIN)、馬場賢吾(KANEMASA PHIL.)、宮田ヴィクトリア紗枝(quitan)、村上亮太(pillings)――の9件。
 最初に、選考委員がそれぞれ新人賞にふさわしいと思う候補者を2人ずつ挙げた。その結果、舟山、中島、村上に多く票が集まった。
 舟山については「何度も新人賞にノミネートされている。直近のコレクションを見ても充実している」「自分の世界観を守りながら客層を広げている。進化していると思う」「幅広い層に対して女性視点から発信していて、とても影響力がある」といった意見が出た。中島については「簡単に着られるのにモード感がある服を作っている」「コンセプトの探し方やモチーフの組み合わせ方に底知れない可能性を感じる」といった声が上がった。村上については「産地に足を運び、生産プロセスに重きを置いているクリエーター」といった評価があった。
 この3者で決選投票を行った結果、舟山の受賞が決まった。
<鯨岡阿美子賞>宮浦晋哉(株式会社糸編 代表取締役、ファッションキュレーター)
 ノミネートされたのは宮浦のほか、芦田多恵(ジュン アシダ クリエイティブディレクター)、安達市三(株式会社コルクルーム代表取締役/東京ファッション専門学校理事・講師)、有田正博(PERMANENTMODERN 代表)、大橋智浩(株式会社MONDO-artist group取締役/ヘアーアーティスト)、小池一子(クリエイティブディレクター)、小島健輔(株式会社小島ファッションマーケティング代表取締役)、中伝毛織株式会社、日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)、日本ファッション・ウィーク推進機構、ハイドサイン、藤原ヒロシ(音楽プロデューサー)、株式会社細尾、山口裕子(デザイナー)、四方義朗(ファッションプロデューサー)、YKK株式会社――の16件。
 選考委員が推したい候補を2件ずつ挙げたところ、宮浦と株式会社細尾に票が多く入った。宮浦については30代とまだ若いながらも産地と人々をつなぐ活動を10年以上続けている点が評価された。株式会社細尾については、大阪・関西万博のパビリオンに使用する西陣織を手がけた点や海外でも存在感を発揮している点が称賛された。話し合いの結果、宮浦の受賞が決定した。
<話題賞>YKK株式会社「YKKファスニングアワード」
 「YKKファスニングアワード」(主催:YKK株式会社、YKKスナップファスナー株式会社)は、今年、第25回を迎えた日本最大級の学生向けファッションデザインコンテスト。若手クリエイターが“ジャパンオリジナル”を世界に発信し、グローバルに活躍することを願って2001年に創設された。「人が身に着けることができる作品」をテーマに、アパレル部門とファッショングッズ部門の2部門で募集、昨年は8,608点の応募があった。各部門でグランプリ、優秀賞、特別賞が選ばれ、受賞者にはYKKファスニング商品の無償オーダー権などの支援が提供される。注目の若手デザイナーを輩出してきた実績もあり、今年はSDGsを意識した「Circular Design特別賞」が新設された。世界的企業によるこの取り組みは、ファッション業界の発展に貢献している。以上の理由から毎日新聞社が「話題賞」として選考委員に諮り、承認された。
<選考委員特別賞>皆川明(minä perhonenデザイナー)
 皆川は、1995年に「minä perhonen」の前身「minä」を設立した。皆川は大賞にノミネートされていたが、大賞を選考する過程で、30年間の地道な活動を改めて顕彰し、たたえたいという声が多くあがり、選考委員特別賞とした。
※文中敬称略

選考委員講評 Jury Critique (※肩書は当時)

佐伯徳彦 Norihiko Saeki

経済産業省 商務・サービスグループ 文化創造産業課長 Director, Culture & Creative Industries Division, Commerce and Service Industry Policy Group, METI

今年も、歴史ある毎日ファッション大賞にふさわしい方々が選出されました。受賞者及び関係者の皆様のたゆまぬ努力に敬意を表するとともに、今後のさらなるご活躍を期待しております。
今回の選定プロセスでは、日本の得意分野である素材をうまく活用し訴求するメゾンもあれば、強い個性、考え方をアピールされているメゾンもあり、興味深く拝見致しました。
経済産業省としても、創業デザイナーが交代しても、ブランドの価値が継続され、強いアイデンティティを持ち、かつ、海外を含めたお客様に訴求力のあるブランドを応援していきたいと思います。私どもとしては、こうした状況に至るものを「ファッションIP」と呼ばせていただいており、海外マーケットを視野に活躍できる、次の時代を担うブランドやデザイナーの支援に、引き続き力を入れてまいります。貴重な機会にお招きいただきまして、どうもありがとうございました。

太田伸之 Nobuyuki Ota

MDコンサルタント MD consultant

海外からの訪日業界研修団に講演するとき、青山スパイラルビル5階CALLミナペルホネン店の視察を勧めています。ビルの上層階、ひと昔前なら考えられない場所でも賑わうお店、「その要因を探ってください」と。ここでは服や服飾雑貨のほか、オリジナルの布地、リビング雑貨、安全で美味しい食品に加えカフェも併設、皆川明さんの考える心地良い暮らしとブランド世界観がストレートに伝わってきます。ネットを駆使して自ら情報発信できる時代、明確な世界観があれば不利な立地条件でも集客はできる、CALLはそれを証明しています。創業30年、産地職人さんたちと一緒にコツコツ積み上げてきたクリエーションを改めて評価しての選考委員特別賞です。

呉佳子 Yoshiko Go

資生堂ファッションディレクター Fashion Director, SHISEIDO

選考委員として嬉しいのは、新人賞を受賞したデザイナーが数年後に大賞に輝く瞬間です。一時の注目は、運やタイミングも大いに関係しますが、その後も第一線で活躍し続けるには想像を超えた努力と覚悟が不可欠。少しでも止まれば、注目を失いかねない過酷な世界で、確かな歩みを重ね、存在感を保ち続けることがいかに難しいか、私たちは毎年痛感しています。岩井さんの大賞受賞は、着実にブランドを育て、海外での評価と注目を高めてきた結果です。また、新人賞の舟山さんはこれまで何度も候補にあがり、実力と可能性を示した末の受賞となりました。
そして、今年30周年を迎えた皆川さん。独自の世界観を長きに渡り磨きあげてきたその姿勢は、継続の難しさを知るすべてのデザイナーにとっての希望です。審査員特別賞は次世代への道標として期待を込めたものでした。

小湊千恵美 Chiemi Kominato

FASHIONSNAP ファッションディレクター Fashion Director, FASHIONSNAP

真に「いい服」が求められ、注目を浴びているのが日本のブランドです。海外コレクションのハイライトとして、特にクワイエットラグジュアリーの新旗手である「オーラリー」の名を目にすることが増えました。リアルでありながら上質、服好きにとって絶妙な「いい服」なのです。一方で「フェティコ」もまた、女性の身体美を捉えたデザインが着実にファン層を拡大。着る人のための服作りと真摯に向き合い続けてきた両者それぞれの、さらなる活躍に期待しています。

須藤玲子 Reiko Sudo

テキスタイルデザイナー/東京造形大学名誉教授 Textile Designer/Emerita Professor at Tokyo Zokei University

手織り布の誕生からハイテクな機能性繊維まで、長きにわたる繊維の進化は、私たちの着こなしを形作ってきました。同時に、今は変化するファッションと消費者の需要が、繊維のイノベーションを牽引しています。
今回の受賞者の取り組みからは、繊維がどのようにファッショントレンドを生み出し、ファッション産業がどのように繊維の進化を促しているかがわかるように思います。これは何世紀にもわたって歩み、進化を続けてきた道筋です。素材を選ぶデザイナーであれ、ラックを眺める消費者であれ、このデザイナーと繊維産業との強固な関係を理解することで、衣服の歴史と未来について新たな洞察が得られます。これらのコレクションは、エレガンスの真髄を捉えたものですから。

玉利亜紀子 Akiko Tamari

装苑編集部 編集長 Editor in Chief, SOEN

長年にわたりフィールドを広げながら、自身のクリエイションを着実に発信、展開し続けられること。ビジネスビジョンに即した迅速な判断力と行動力によって、時代のニーズや価値観に柔軟に応えられること。そして、品質への一貫したこだわりをもって、認知と実績を丁寧に積み上げること。いずれも、揺るぎない世界観を確立するうえで、今のファッション業界において、欠かせない本質的な要素であると、今回の審査を通じてあらためて感じました。大賞を受賞された岩井さんは、学生時代からよく知る存在です。純粋な好奇心をもって取り組み、見るもの、触れるものすべてに前向きな姿勢がとても印象的だった方です。そうした真っ直ぐな感性を持つ岩井さんだからこそ、素材ひとつにも誠実に向き合いながら、強い創造力を発揮されているのだと思います。

宮田理江 Rie Miyata

ファッションジャーナリスト Fashion journalist

日本のモード系ファッションに勢いを感じます。新鋭や中堅の伸びが顕著です。今回の個人受賞者は3人とも40歳前後。実力や貢献度をしっかり見極めつつ、次世代を担う人たちを選出できたことは毎日ファッション大賞そのものの意義を深めました。「現在進行形」の仕事ぶりをたたえたのは、今選考の大きな成果と言えそうです。着る人へのエンパワーメントが新人賞では認められ、静かな主張が大賞を射止めました。不穏や不安が濃くなる時代に、異なるアプローチで、着る人に寄り添った2人です。さらに、YKKとミナ ペルホネンという、異なる領域で日本のファッションに多大な貢献をしてきた両者の受賞にも関われたことを誇りに思います。

村上要 Kaname Murakami

WWDJAPAN編集長 Editor in Chief, WWDJAPAN

大賞を受賞した「オーラリー」は、パリ・メンズ・ファッション・ウイークへの参加以降、“覚悟”のようなものが見え始め、共感の輪が広がっている印象があります。また、「アップデートした定番」や「聞いたことはあるけれど、クローゼットにはまだない気の利いた洋服」を自由にコーディネートすることで着る人の個性を表現するという、昨今の潮流となっているデザインアプローチをけん引している存在です。新人賞・資生堂奨励賞の「フェティコ」は、“カワイイ”に支配されていた東京のウィメンズ・デザイナーの中で数少ないオルタナティブな存在。強くてもいいけれど、そうじゃない時があってもいいという自然体のスタンスに進化しつつある印象です。どちらも、自分の世界観と、着る人の個性の融合を図ろうとしている点に好感が持てます。

前田浩智 Hirotomo Maeda

毎日新聞社主筆 Editor in Chief, THE MAINICHI NEWSPAPERS

20世紀は「戦争の世紀」とも呼ばれました。ならば、21世紀はどうなのか。ウクライナも中東・ガザも終わりが見えず、悪い予感が先に立ちます。「ファッションは時代の変化を反映する鏡」という言葉を聞いたことがあります。では、戦後80年という時代を2025年のファッションはどう映し出すのか――。今回の審査で一番意識したポイントでした。激動は戦争ばかりではありません。トランプ米大統領が背を向ける地球環境問題は危機の度を増しています。人類最後の大発明と言われるAI(人工知能)は暴走の懸念も指摘されます。そんな時代をどのように受け止め、抗い、変化していくのか。受賞した皆さんのさらなる前進を楽しみにしています。

※順不同・敬称略